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2025.04.14

「チームの成長には個々の目標設定、科学的アプローチ、地域連携が重要」 バレーボール部男子?沼田監督 コーチング研究誌「櫂」から

 大阪体育大学スポーツ科学部の沼田薫樹講師(測定評価学)は昨春からバレーボール部男子監督を務めています。スポーツ科学部スポーツ教育コース発行のコーチング研究誌「櫂(かい)」での寄稿では、「選手個々の目標設定、科学的アプローチ、地域連携」の大切さを強調しています。

望(のぞみ)―コーチの視角―  新任バレーボール指導者の「望」
バレーボール部男子監督 沼田薫樹講師

 「望」というテーマを掲げ、バレーボール指導者としての視点から2024年度の男子バレーボール部の活動について振り返ります。「望」は希望や志、期待といった前向きなエネルギーを表す言葉であり、指導者として選手やチームの成長を導くための核心的な理念となります。本稿では、「望」を起点として、選手個々の成長からチーム全体の目標達成、さらに社会貢献に至るまでの包括的なアプローチを論じます。

自己紹介
 まず簡単に自己紹介をさせてください。2024年4月よりスポーツ科学部の講師として着任いたしました、沼田薫樹(ぬまたこうき)と申します。専門領域はバレーボール、測定評価、ゲームパフォーマンス分析を中心に研究活動を行っています。前職は鹿屋体育大学に4年間特任助教として勤めており、女子バレーボール部のコーチとしても従事しておりました。バレー部ではアナリストの育成やスポーツパフォーマンス分析を通じて選手と関わり、インカレ優勝も経験させていただきました。そんな女子から男子の指導者へ転向した1年目の指導者が、格好つけながら「望」を語りたいと思います。

2024年度の振り返りと「望」
 2024年度の男子バレーボール部の活動を振り返る中で、「望」というテーマが浮き彫りになった出来事がいくつもありました。4月の関西春季1部リーグでは、成績が低迷し1勝10敗で12位となり、2部に降格する結果となりました。しかし、その後の7月の西日本インカレでは2年生の広瀬のリーダーシップがチームを支え、ベスト16という成績を収めることができました。そして、9月の関西秋季2部リーグでは、チーム一丸となって1部昇格を目指しました。昇格が掛かった試合では、1セット目は先取したものの、2、3セット目を落とし後がない状況となった。「何か変えなければ負ける」と選手たちとセット間で話し合い、エースである出水のポジションをレフトからオポジットに変更し、レシーブ力がある松本をレフトに投入した。松本の驚異的なレシーブと、高さのある出水のスパイクで、5セット目はデュースが続く中、最後まで粘りを見せ22-20で勝利、目標を達成することができました。
 この一年間は、選手やスタッフにとって成長と学びの連続でした。春の失敗はチーム全体の問題を明確にし、選手とのコミュニケーション不足や、戦術の柔軟性を欠いた部分が露呈しました。それを踏まえた改善努力が、夏以降のチームの団結と成績向上につながりました。また、広瀬のリーダーシップは他の選手にも刺激を与え、個々の主体性を引き出す大きな役割を果たしました。

選手個々の成長における「望」
 私のコーチングにおける「望」は、選手一人ひとりの目標設定から始まります。選手が自身の「望」を明確にし、その実現に向けたプロセスを共有することは、信頼関係の構築とパフォーマンス向上の基盤を形成すると考えています。さらに、この過程で選手が課題解決能力を養い、自らの成長を主体的に追求する姿勢を身につけることが重要です。
 私は着任の2ヶ月ほど前から合流し、チームと行動を共にし始めました。その春休みの期間で、個人面談を通じて、コミュニケーションの場を設けると同時に、目標設定を促しました。例えば、サーブの精度向上を目指す選手には、技術的な目標を達成するための段階的なプランを設計し、その達成を通じて課題解決のプロセスを実践的に学ぶ機会を提供しました。
 一方で、選手の潜在能力を見極め、それを引き出す支援を継続的に行うことが必要だと実感した1年となりました。選手個々の成長は、チームの成功を支える最も重要な要素です。それは技術面だけでなく、精神的な面や社会的な能力も含まれます。一人ひとりの選手が「自分の役割を全うする」という意識を持つことで、チーム全体のシナジーが生まれます。このような環境作りが、指導者としての大きな使命となります。

チーム全体の「望」と行動を通じた目標の実現
 個々の目標とともに、チーム全体で共有する「望」を育むことが、競技力向上には不可欠です。チームスポーツであるバレーボールでは、明確なビジョンを共有し、選手とスタッフが一丸となって目標を追求することが求められます。
 私たちが目指すのは、単なる結果の追求ではなく、行動を通じて目標を実現する姿勢です。一つひとつの練習や試合における行動が、「全日本インカレベスト16」さらには「日本一」という目標に直結していると認識し、日々の積み重ねを重要視します。
 また、私が選手に望むのは、一人ひとりがその強みを発揮し、スポーツを超えて社会に貢献できる人材となることです。バレーボールを通じて培った技術や精神力が、競技の枠を超えた価値を持つことを、選手自身が理解し実践することを期待しています。

科学的アプローチとサポート体制の「望」
 選手とチームの成長を支える上で、アナリスト、S&Cコーチ、アスレチックトレーナーといった専門スタッフの役割は極めて重要です。アナリストは私が着任した時に学生から相談があり、今年度から新設された役職です。手探りながらも、西日本インカレや秋季リーグでは、チームを支えてくれました。 それぞれの専門スタッフの活動には、科学的なアプローチが求められ、選手のパフォーマンスを分析し、改善点を特定します。しかし、現状では素晴らしいアプローチがされているものの、スムーズな情報共有が十分に行われておらず、改善が必要だと感じています。具体的には、データの収集や共有プロセスにおける課題が散見され、これが選手やスタッフ間の意思疎通を妨げる要因となっています。このような状況を打開するためには、効果的なデータベースの構築や情報の管理体制の見直しが急務です。これらのスタッフとの密接な連携が、選手のポテンシャルを最大化する鍵となりますが、そのためにも情報共有の質を高めるための組織的な対応が不可欠です。

指導者自身の「望」
 指導者自身も「望」を持ち続け、指導方法や自身の能力を向上させる努力を怠るべきではありません。常に選手に寄り添い、科学的な知見に基づいたアプローチを取り入れながら、彼らが直面する課題や困難を共に乗り越える姿勢を示す必要があります。一方で、科学的なアプローチを支持しつつも、それに反発する選手や独自のやり方を貫く選手への理解も求められます。このような選手への対応を通じて、柔軟性を持ちながらも信頼関係を強化することが、選手にとっての安心感と信頼感を醸成し、より高い目標へと導く力になると考えています。

地域との連携と「望」の共有
 「望」は選手とコーチだけでなく、地域社会や応援してくれる人々と共有されるものです。観客や保護者、支援者が選手の努力を見守り、その成功を共に喜ぶことで、「望」はさらなるエネルギーを得ます。24年度になって、男子バレーボール部に初の女子マネージャーが誕生しました。彼女の取り組みは、Instagramを通じて、中と外を繋ぐとても大切な役割を果たしてくれました。SNSやオンラインプラットフォームを活用することで、選手やチームの取り組みを広く発信し、より多くの人々と共感を生み出すことも可能であることを示しました。バレーボールを通じて地域にポジティブな影響を与えることは、スポーツの社会的意義を高める重要な要素です。
 25年度のシーズンは、地域イベントやバレーボール教室などを通じて、地域住民と選手が直接触れ合う機会を設け、スポーツの力を社会に伝えることに取り組みたいと思います。

おわりに
 「望」を中心に据えたコーチングは、選手やチームの競技力向上を超えて、個々人の人間的成長と社会的貢献を促進するものです。バレーボール指導者として、選手とともに「望」を共有し、その実現に向けて行動することこそが私たちの使命であり、最大の喜びであると確信しています。この理念を胸に、さらなる挑戦を続けていきたいと思います。

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