部活動指導の人材養成 社会人講座が人気 「公認資格が取れる」「企業でも活用」 大阪体育大学「運動部活動指導認定プログラム」

 主に社会人を対象に、中学校などでの運動部活動や地域のスポーツクラブでの指導に携わる人材を養成する大阪体育大学のリカレント講座に注目が集まっています。スポーツ指導に初めてチャレンジする会社員、さらなるスキルアップや学び直しを目指す指導者らが、オンデマンド中心の「運動部活動指導認定プログラム」を全国から受講。プログラムの魅力として、参加者は日本スポーツ協会(JSPO)公認のスポーツコーチングリーダー資格が取得できることや、講座での学びが企業や組織でのマネジメントにも活用できることなどを挙げます。9月8日の最終演習では、対面とオンライン併用でワークショップが実施されました。

最終演習には対面、オンラインで37人が参加した

最終演習には対面、オンラインで37人が参加した


 ★グッドコーチの条件は?「あなたの考えるグッドコーチの条件とは?」 土屋裕睦スポーツ科学部教授(スポーツ心理学)が受講者に問いかけました。最終演習「運動部活動の実践Ⅰ」では、受講者は4人前後のグループに分かれ、スポーツ?ハラスメントに頼らない優れたグッドコーチの条件を話し合い、「態度?行動」「思考?判断」「共通知識」「専門知識」の4項目に区切られたボードに書き込んでいきます。午後からの「実践Ⅱ」では、コーチ役が板で隠れた選手役にカラーブロックの組み立て方を言葉だけで伝えるワークなどで、言葉と動作?行動による指導法を学びました。体育館での「実践Ⅲ」では、グループごとにバレーボール、サッカー、バスケットボールなどのミニゲームを実施。実際に大阪体育大学浪商中学のハンドボール部員を指導し、反省点を話し合いました。
グッドコーチに求められる資質や能力をグループで話し合い、ボードに書き込む

グッドコーチに求められる資質や能力をグループで話し合い、ボードに書き込む


コーチ役は自分で組み立てたカラーブロックを言葉だけで伝え、選手役は同じ組み立て方を目指す。イメージを的確に伝える力を学ぶ

コーチ役は自分で組み立てたカラーブロックを言葉だけで伝え、選手役は同じ組み立て方を目指す。イメージを的確に伝える力を学ぶ


コーチ役はミニゲームのルールやアップの仕方を決めて中学生を指導。ゲーム後、池上客員教授と反省点を話し合った

コーチ役はミニゲームのルールやアップの仕方を決めて中学生を指導。ゲーム後、池上客員教授と反省点を話し合った


 ★JSPO公認資格を取得できる 運動部活動指導認定プログラムは、春開講、秋開講の2期制で、オンデマンド50時間、ハイフレックス(対面?オンライン併用)10時間の必修科目を修了すると、本学が発行する修了証、学校教育法に基づく履修証明書が交付されるほか、日本スポーツ協会(JSPO)公認のスポーツコーチングリーダー資格が取得できます。
 JSPOは、国の第3期スポーツ基本計画(2022~26年度)に基づいて、監督?コーチが各競技団体が主催する大会に参加する際にJSPO公認資格所持の義務づけを予定しています。
 ★科目は学習指導要領、事故対応など幅広く 科目は部活動の管理運営、学習指導要領から事故対応、メンタルヘルス、保護者対応、女子生徒への配慮、コーチング、ゲームパフォーマンス分析、スポーツ倫理、スポーツマーケティングなど多岐にわたります。講師陣の質が高く、土屋教授は日本スポーツ心理学会理事長でパリ五輪にもウェルフェアオフィサーとして日本選手団に加わり、「実践Ⅱ」の小林博隆スポーツ科学部准教授(体育科教育学)はNHKなどに多数出演して体力テストのコツや上達法を分かりやすく解説。「実践Ⅲ」の池上正客員教授は元Jリーグ京都サンガ普及育成部長で、長年、子どものサッカー指導にあたりました。
実践Ⅰ担当の土屋裕睦教授。ウェルフェアオフィサーとしてパリ五輪日本選手団にも加わった

実践Ⅰ担当の土屋裕睦教授。ウェルフェアオフィサーとしてパリ五輪日本選手団にも加わった


実践Ⅱ担当の小林博隆准教授。NHK、民放に多数出演している

実践Ⅱ担当の小林博隆准教授。NHK、民放に多数出演している


実践Ⅲ担当の池上正客員教授。元Jリーグ京都サンガ普及育成部長で、長年、子どものサッカー指導にあたった

実践Ⅲ担当の池上正客員教授。元Jリーグ京都サンガ普及育成部長で、長年、子どものサッカー指導にあたった


 ★指導歴なし57%、50代以上32% 今回の春開講受講者は、北海道から鹿児島県までの37人。年齢は60代5人、50代7人、40代12人、30代3人、20代7人、10代3人で、職業は会社員(役員)11人、学生6人、自営業?個人事業主4人、公務員3人、スポーツ指導者3人など。16人にスポーツ指導歴があり、21人は経験なしでした。
 ★受講目的は「指導員を目指して」「再度勉強を」 受講の目的は、指導歴のない人は「部活動指導員として活動し学校教育に貢献したい」(60代?会社員)、「部活動の地域移行を踏まえ、指導者資格を取得したい」(40代?報道機関勤務)、「スポーツ施設の管理業務を担当しており、スキルアップのため」(50代?会社員)、「来年から中学生を指導するため、知識、指導法を学びたい」(20代?大学生)など。指導歴のある人は「地域移行の受け皿になる場づくりを考えている」(20代?公務員)、「社内で受講するよう連絡があった」(40代?スポーツスクール勤務)、「部活動の地域移行に向けて再度勉強したい」(40代?教育委員会勤務)などです。
運動部活動指導認定プログラム受講者リスト
 ★日経新聞記事きっかけに受講 大阪府の会社員、八重樫崇さん(47)は昨年9月の日本経済新聞記事をきっかけに受講を決めました。スポーツの指導歴はありませんが、子どもの時から剣道を続けていました。数年前に、部活動が中学校から地域のスポーツクラブなどに移行される方針であることを知り、会社員でも部活動指導に携わることができないかと考えていたそうです。記事は「地域移行 むしろチャンス」「部活指導に社会人呼び込め」の見出しで、本学の運動部活動指導認定プログラムを紹介する内容。「仕事との両立が難しいかなと思っていたところで記事を読み、このプログラムを受講すれば何かできるのではと思って参加しました」と話します。
 ★プログラムは仕事にも活きる 受講していく中で心に葛藤があったといいます。生徒にとって部活動ができる時間は人生の中で非常に限られていて、その大事な部分を自分が担う重責を感じました。科目を学ぶうち「自分には指導はできないのではないか」という思いも生まれました。しかし、講義で「アウトプットしてフィードバックして、失敗して学んでいく」ことが重要だと学び、それが一番心強い言葉になったといいます。
 また、「プログラムは自分の知らない知見が非常に多く、コミュニケーションの重要性など、どの科目も必ず仕事にも活きると思います」と振り返っています。
八重樫崇さん。会社員でも部活動指導に携わることができないかと考え、新聞記事をきっかけに受講した

八重樫崇さん。会社員でも部活動指導に携わることができないかと考え、新聞記事をきっかけに受講した


 ★岐路に立つ運動部活動 中学校などでの運動部活動は今、大きな岐路を迎えています。
 文部科学省は2020年、体罰?ハラスメントの根絶や学校の働き方改革を目的に、公立中学校での休日の部活動を地域に移行する方針を打ち出しました。このため、自治体などでは、指導の資質や能力を備えたスポーツ指導者の確保が急務になっています。
 学校現場では、教員にとって部活動指導の負担が深刻で、中学スポーツの日本一を決める全国中学校体育大会は、教員の負担軽減などのため、9競技の除外が決まりました。
 開学以来、多数の保健体育科教諭を養成してきた大阪体育大学では、2019、20年度にスポーツ庁から「運動部活動改革プラン」事業を2年連続で受託。自学の学生を部活動の指導者に育てるプログラム「グッドコーチ養成セミナー」の開発や、学校?教育委員会に学生を紹介する仕組みを構築してきました。「運動部活動指導認定プログラム」は地域移行の方針を受け、「グッドコーチ養成セミナー」のカリキュラムをベースに社会人向けプログラムとして開発されました。
 ★高知県から6人など自治体が活用 このプログラムは、新たにスポーツ指導を志す社会人、さらなるスキルアップや「学び直し」を目指すスポーツ指導者ら個人のほか、過疎化が進む中でスポーツ指導の人材確保が急務になっている自治体の利用が目立ちます。今回の春開講では、本学とスポーツ振興?地域活性化などで包括連携協定を結ぶ高知県から大学生など6人が参加。昨年度秋開講では長崎県長与町から14人が受講しました。他にも部活動指導の人材確保を目指し、このプログラムの活用を予定している自治体がいくつかあります。地域おこし協力隊の利用も増えています。
 ★秋開講は10~1月 秋開講は10月から来年1月に実施されます(申し込み受付は終了)。プログラムの詳細や次年度春開講以降の受講は、こちらをご参照ください。